■犬子vsハルカ
ハルカに「なの女」の案内が来たのは、ハルカが市内のある男女混合の格闘大会で優勝して直ぐの事だった。
自分より強い、それも異性を相手に戦ってきたハルカは、今更女の同姓同士で戦う事に魅力を感じていなかったが、「なの女」には興味を抱いていた。それは、「なの女」の試合ルールにバラエティがあったからだ。
普通の格闘技ルールから、2対1でのハンディキャップマッチ、それに失神オンリーマッチや、カタルシスマッチと呼ばれる、相手をイかせる事が勝利条件という変わったものまであった。
「せっかくだし、行ってみようかなぁ。」ハルカは気だるそうに携帯を取り出し、「なの女」に参加する意思を伝えた。後日、練習試合のお知らせという案内が届き、そこには当日の対戦相手のプロフィールが同封されていた。
「よもぎだ・・・いぬこ?変な名前。でも柔道家なんだぁ。少しは楽しめるかもしれないな♪一応、対策も練っておこうかなぁ・・・」
___練習試合当日
「なの女」のリング上でハルカが準備体操をしていると、髪を緑にしたツインテールの女の子がリング上に上がってきた。ハルカはそれが直ぐに今日の対戦相手である蓬田犬子だと解った。
「犬子・・ちゃんだよね?変わった名前だったから、最初読めなかったよ。今日は宜しくねぇ〜」ハルカはその場に立ち、犬子に握手を求めた。
「今日は、よ・・・宜しくお願いします!」犬子は興奮しているのか、顔を真っ赤にしながら、ハルカの差し出した手を両手でしっかりと握った。そして照れくさそうに、時折目を逸らしながら、ハルカに言った。
「あの、ハルカさんは格闘技を習い始めて、まだ間もないんですよね?私、6歳の頃からずっと柔道をやってて、
その・・・私の方が、年齢も少しお姉さんだし、今日は・・・その軽めに試合しましょうね?」
犬子はハルカを直視していなかったが、ハルカの雰囲気がガラリと変わるのが解った。
「あ、犬子ちゃん、じゃなくて、犬子先輩か。あの、そんなに気を使ってもらわなくても大丈夫ですよ。私、犬子先輩が思っている以上に強いと思うんで・・・」静かに睨み返すハルカを見て、犬子は「き・・・気を悪くさせちゃったなら、ご・・ごめんなさいね!」と直ぐに謝った。
ハルカは拍子抜けしたような表情を見せた後、試合開始のゴングを待つために、自分のコーナーに戻っていった。犬子はその様子を目で追いながら、ペロリと舌なめずりした。「美味しそう♪」
____練習試合開始
カーンッ!
テープで録音されたゴングの合図が、定刻通りに2人だけのリングに木霊した。
「ハルカちゃん、一応私が審査員というか、その・・・貴方が『なの女』に相応しい人かを見極める試験官役なんだけど、ハルカちゃんの実力は認められてるし、『なの女』からの練習試合のオファーは、実質的なスカウトみたいなものだから、そんなに気負わないでね。」そう言いながら、犬子はゆっくりと構えを取る。
しかし、その構えを取り切るか否かの刹那、ハルカはダイナミックに犬子に走り寄っていき、勢いと体重を存分に載せた膝蹴りを、犬子の鳩尾に叩き込んだ!
「・・・ぐっ!!!」犬子は不意の攻撃に、腹筋に力を入れておらず、モロにハルカの膝蹴りを腹部に受け、その場にしゃがみ込んでしまった。
「あのさぁ・・・会って早々に、そのお姉さん面?されるのチョ〜うざいんだけど。要は試験官のアンタをボコれば良いんでしょ?話し方とか、結構ムカつく感じだし、遠慮なくやらせてもらうね〜、先輩っ!!」
ハルカはしゃがみ込んでいる犬子目掛けて、蹴りを連発した!
ドゴッ! ドゴッ!!
「まだまだ終わりじゃないよ♪」ハルカはそう言うと、犬子の髪の毛を引っ張り、無理やり立ち上がらせると、再度狙いやすくなった腹部に向かって、膝蹴りを何度も叩き込み、その度に犬子の身体は地面を離れた。
ズンッ!! ズンッ!!
「ねぇ、私の膝蹴り効くでしょ?鍛えてない男のアバラなんて、これで一発だし、私陸上部長かったしね。柔道ばっかりの先輩には、こういう戦い方はちょっとキツかったかな?アハハ!」
その場に倒れている犬子を見下しながら、ハルカは既に自分の勝利を確信していた。しかし、ハルカの確信は直ぐに崩れ去った。
「ん〜、ちょっと期待はずれで、残念だったかな。」その場に倒れていた犬子が、ゆっくりと立ち上がる。
「ハルカちゃん、女の子と戦った事って、あまりないでしょ?だから、本気で殴り切れなかったんだね。自分より強い男の子とかを相手にばっかり戦ってたから、自分より弱い同姓の女の子を攻撃する時、無意識にストッパーが掛かっちゃうみたいだねぇ。」
犬子は先程のように目をそらしたりせず、まっすぐと、そして舐め回すようにハルカを見つめながら言う。
「私ね、ハルカちゃん絞め技が得意って聞いてたから、今日はとっても楽しみにしてたの・・・ハルカちゃんの陸上部で鍛えた脚でね、その・・・絞め上げられてみたいじゃない?ハルカちゃん、可愛いし、あと・・・ちょっとヒールな感じの子に、メチャクチャにされたいし・・・・」
ハルカは、犬子が試合前とは全く別の雰囲気を出している事に警戒した。犬子は肩で息をしているが、それはハルカの膝蹴りのダメージによるものではない。頬も紅潮し、明らかに興奮している。
「あ・・あんた何言ってんの?チョ〜きもいんですけど。私にそんなに絞められたいなら、アンタが失禁するまで絞め上げて、二度とそんなキモい発想が出来ないように、地獄を見せてあげるわよ!」
「フフ・・・ハルカちゃん、ちょっと私のこと怖がってるでしょ?だから、今日は制服じゃなくて、柔道家に、服を掴まれにくい制服をモチーフにした肌に吸い付く感じのリングコスチュームを着てきたんだもんね?そういう所も、可愛いよ。」
ハルカは、一瞬悔しそうな表情を浮かべた後、すぐに怒りをあらわにした。
「絞め落としてあげるよっ!!」
ハルカが、犬子に掴みかかろうとする。しかし、犬子はそれを上手に受け流し、ハルカの体勢を崩した。
「おいで♪ハルカちゃん♪」
突然、ハルカの目の前に、食虫植物が獲物を捕えるように開かれる犬子の両脚が現れ、その両脚がハルカの首に巻きついた。そして、犬子は素早く三角絞めの体勢を整え、ハルカを地面に引きずり込んだ。その光景はさながら、蟻地獄の罠に掛かった可憐な蝶を連想させた。
「・・・・ぐっ!!・・・・」ハルカは犬子にガッチリと三角絞めを極められ、身動きが取れない。
「ハルカちゃん、捕まえちゃった♪フフ、私の絞め技はどうかな?ハルカちゃんみたく、威力はないかもしれないけど、絶対に逃げられないと思うよ。あぁ、ハルカちゃんが私の股間の間で苦しんでる・・・どうしよう、ちょっと興奮してきちゃったよ。」
犬子は、確実にハルカの首を捉えつつ、またハルカを絶対に逃がさないように体勢を調整していく。何十年も寝技の練習をしてきた犬子にとって、格闘技を初めて間もないハルカの動きを封じる事は造作も無いことだった。
「・・・クソッ!・・・」ハルカは、自由が効く片腕で、犬子の太股や下半身を殴るが、技を極められているために、有効なダメージを与える事が全く出来ない。
「ハルカちゃんは、何人も男の子を絞め落として来たんだろうけど、私はその倍近い数の女の子を絞め落としてきてるからね。正直、もう抵抗しても無駄だよ?ハルカちゃんの情けなく、失神しちゃう顔も見たいし、ハルカちゃんが失禁した姿も見たいし・・・
ハルカちゃんに落とされるのも良いかなって思ってたんだけど、ハルカちゃんの『はじめて』は、私がもらっちゃうね♪」
ぎゅうううううううううううう!!!!
犬子は太股でハルカを絞め上げつつ、ハルカの苦しそうな表情を一瞬も見逃すまいと、ハルカの顔をじっと見ている。
ハルカは苦しさから逃れようと、何度も体勢を入れ替えるが、犬子はその動きに合わせて三角絞めの角度を調整し、ハルカをより深く、より逃げられない体勢へと誘導していく。
「段々、目が虚ろになってきちゃったね?今日は練習試合だし、直ぐに楽にしてあげるね。でも、次にハルカちゃんと戦う時は、ハルカちゃんが私無しじゃ生きられなくなるぐらい、気持ち良い事いっぱいしてあげるからね。さぁ〜って♪そろそろハルカちゃんの『はじめて』をもらっちゃおっかな♪」
ぎゅうううううううううう!!!!
ぎゅううううううううううう!!!
犬子は一気に太股に力を入れ、ハルカの頸動脈を的確に絞め上げた!
ハルカは犬子を睨みつけているが、犬子はその視線を楽しむように、時折ハルカの髪を撫でながら、ハルカを絞め落とした。
______
「・・・ハル・・・ハルカちゃん・・・」
ハルカはゆっくりと目を覚ました。そして直ぐに犬子が視界に入った。犬子はハルカの意識を奪った後、直ぐに活を入れ、ハルカの意識を戻したのだ。
「大丈夫だった?」犬子はハルカを起こそうと、手を差し伸べたが、ハルカはその手を強く払った。
そして、自分で立ち上がり、犬子の耳元で静かに、
「・・・アンタ、次は絶対ボコボコにしてあげるから・・・」
ハルカはそう短く言い放ち、練習場を去っていった。
プルルルルル プルルルル 携帯の着信音が、犬子1人になった練習場に鳴り響く。
「もしもし?犬子です。はい、今ちょうどハルカちゃんとの練習試合が終わりました。はい、そうですね。彼女、期待通りのヒール役として、『なの女』で活躍してくれると思いますよ。
でも、私相当恨まれちゃったと思うので、私も練習頑張らないとボコボコにされちゃうかもしれません。はい、今回はハルカちゃんの絞め技を食らわずに済んだのですが、膝蹴りだけでも相当なダメージを負いました。
やせ我慢して、何とか戦ったんですけど、私の余裕が無くなっちゃって、直ぐに絞め落としちゃいました。今、ハルカちゃんですか?もう帰られましたけど、私の事をボコるために、そっちに連絡が直ぐにあると思いますよ!それじゃあ、私も今からそっちに戻ります。はい、失礼します。」
犬子は帰り際、ハルカとの試合を思い出しながら呟いた。
「やっぱり、ハルカちゃんに絞め落とされてみたかったなぁ・・・・」